ジョブ型という言葉は就活の場でもよく聞きますが、新卒の自分に何が関係するのかは分かりにくいままです。2024年8月、内閣官房・経済産業省・厚生労働省が、すでにジョブ型人事を導入している20社の事例をまとめた「ジョブ型人事指針」を公表しています。この記事では、その20社の記述から新卒採用に関わる部分だけを抜き出し、応募する側から見て何が変わるのかを整理します。
この記事は「ジョブ型人事指針」(令和6年8月28日、内閣官房・経済産業省・厚生労働省)と、採用と大学教育の未来に関する産学協議会の2024年度報告書をもとにしています。いずれも2026年9月に内容を確認しました。各社の制度は変わることがあるため、応募の前に採用ページをご確認ください。
ジョブ型人事とは何を指すのか
指針は、令和6年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」を引用する形で始まります。そこでは従来の日本の雇用制度が、次のように整理されています。
新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリ・スキリングがいきるかどうかは人事異動次第だった、という記述です。従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムであった、とも書かれています。
これに対してジョブ型人事は、個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、従業員が上司と相談しながら自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していく仕組みだと説明されています。
指針が挙げる企業側の危機感は3つです。専門性を有する人材が採用しにくいこと、若手を適材適所の観点から抜てきしにくいこと、日本以外の国ではジョブ型人事が一般的なため社内に人材を留めることが難しいこと。学生にとって重要なのは、この3つのうち最初の2つが、新卒の採り方に直接影響する点です。
政府が20社の導入事例を公表している
指針は、すでにジョブ型人事を導入している20社に情報開示を依頼し、制度の導入目的、等級・報酬・評価制度の骨格、採用や人事異動などの雇用管理制度、人事部と各部署の権限分掌、労使コミュニケーションを含む導入プロセスを整理したものです。令和5年4月から令和6年7月まで全10回の分科会での議論を経て取りまとめられたと記載されています。
企業の採用ページでは「ジョブ型を導入しています」の一文で終わることが多いのに対し、この指針には各社が何をどこまで変えたかが具体的に書かれています。就活の情報源としては、かなり使えます。
20社の新卒採用はどうなっているか
指針の記述から、新卒採用に関わる部分を抜き出したものが次の表です。数字はいずれも指針に記載された時点のものです。
| 企業 | 新卒採用の方式 | 新卒と経験者の関係 |
|---|---|---|
| 富士通 | 応募時点から職種や職務を限定した採用に変更。2026年4月入社者から一律の初任給を廃止し、入社時からジョブや職責に応じた処遇 | 2023年度の経験者採用1083名が新卒採用1037名を上回る |
| 日立製作所 | 技術系は2001年から「ジョブマッチング」としてジョブごとに採用。事務系も「パーソナライズ採用」の方針で職種・職務を特定 | 2023年度は新卒695人、経験者560人。経験者は2018年比3.7倍 |
| アフラック生命保険 | 初期配属先を確約する「WING制度」。2024年の新入社員の約15%が活用 | 記載なし |
| パナソニック コネクト | 職種や業務レベルによって等級を柔軟に設定した採用を検討中 | 新卒と経験者は概ね1対1 |
| レゾナック・ホールディングス | 技術系職種は配属部門を事前に特定して採用 | 記載なし |
| ソニーグループ | 130コース(技術系115、事務系15)に分けた職種別採用 | 記載なし |
| オムロン | 新卒・経験者を問わず、配置する事業部や職掌を特定して採用 | 新卒入社後3〜5年の主査未満にはジョブ型を適用していない |
| 中外製薬 | 研究職・開発職・MR職などの区分による職種別採用 | 2023年に経験者採用の人数が新卒を上回った |
| KDDI | 配属領域を限定しない「OPENコース」と限定する「WILLコース」。WILLは技術系7領域、業務系5領域 | WILLコースは2020年度の20%から2023年度は約60%へ |
| 三菱マテリアル | 従前より職種別採用。総務人事・法務・経理・資材・生産技術などの区分 | 記載なし |
| 資生堂 | ジョブファミリー別(職種別)採用。学生のキャリア志向を加味し少数精鋭化 | 採用全体では経験者採用が多数 |
| リコー | ほとんどの職種で職種別採用。管理・事務、営業、技術などに区分 | 経験者と新卒の比率は2対8 |
| テルモ | 企画営業職・開発技術職などの職種別採用 | 2023年度の新卒と経験者は概ね3対2 |
| オリンパス | 研究開発職・生産技術開発職・グローバル機能職などのコース別採用 | 新卒入社後10年程度はローテーションを実施 |
| ENEOS | 2023年度より4つのコース別採用。総合コースでは一部に初期配属を確約 | 新卒と経験者の割合は3対7 |
| ライオン | 研究職4分野、生産職4分野、経理、経営管理などのコース別採用。2019年頃から実施し職種の幅は細分化傾向 | 経験者採用の割合は約30〜35% |
| 三井化学 | 記載なし | 2023年度は経験者約130名、新卒115名。2021年度以降は経験者が新卒を上回る |
| 三菱UFJ信託銀行 | 配属先を特定しない「オープン採用」と初期配属先を決める「部門選択採用」 | ジョブ型かメンバーシップ型かの選択は原則として入社後に決まる |
| 東洋合成工業 | 記載なし | 経験者採用が新卒採用の2倍以上 |
| メルカリ | 職種別に各分野の専門人材を採用。新卒も即戦力としての活躍が期待される | 新卒5%、経験者95% |
表から読み取れる3つの傾向
職種を決めて応募する形が増えている
20社のうち、新卒採用の方式が記載されている18社のほぼすべてが、職種別またはコース別の採用を行っています。「総合職として入社してから配属が決まる」という形は、この20社では少数派です。
KDDIの数字が、動きの速さを示しています。配属領域を限定するWILLコースでの採用が、2020年度の20%から2023年度には約60%へ、3年で3倍になっています。ただし指針には、自らの適性を理解できていない学生も多いことを背景に、限定しないOPENコースによる採用も引き続き行うと記載されています。
初期配属を確約する制度が出てきた
アフラック生命保険の「WING制度」は、初期配属先を確約する仕組みで、2024年の新入社員の約15%が活用しています。ENEOSも総合コースの一部で初期配属を確約しています。三菱UFJ信託銀行の「部門選択採用」も同じ発想です。
配属先が事前に決まることは、希望と配属のずれがなくなる一方で、入社後に別の仕事を試す余地が狭くなることも意味します。指針にも、KDDIの例として自らの適性を理解できていない学生が多いという認識が記載されています。どちらが自分に合うかは、応募の前に考えておく価値があります。
新卒枠の割合が下がっている企業がある
新卒と経験者の比率が記載されている企業を見ると、経験者採用が新卒採用を上回る企業が複数あります。富士通、中外製薬、三井化学、東洋合成工業、ENEOS、メルカリがそれにあたります。三井化学は2021年度以降その状態が続いていると書かれています。
就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議の決定文書にも、企業が採用予定数を充足できたとする割合が2025年卒で3割台にとどまるという記述があります。新卒の採用枠が埋まりにくくなっている一方で、企業は経験者採用にも力を入れているという2つの動きが同時に起きている状況です。
全部が変わるわけではない
指針を読むと、若手には従来の仕組みを残している企業も目立ちます。
| 企業 | 若手についての扱い |
|---|---|
| オムロン | 新卒入社後3〜5年の主査未満の社員にはジョブ型人事を導入していない。最初の数年間はいろいろな仕事を経験し、自分の強みややりたいことを見つけていく段階にあるとの考えによる |
| オリンパス | 新卒入社後10年程度は、本人の可能性を拡げる意味でもローテーションにより多様な部署を経験させることに一定の意味があるとして、社命による異動の全面的な廃止には踏み切っていない |
| アフラック生命保険 | キャリア初期(入社後10年程度)は会社主導の異動も組み合わせたジョブローテーションを実施 |
| 三菱UFJ信託銀行 | ジョブ型かメンバーシップ型かの選択は、多くの場合入社時点では決まらず、その後の業務領域と本人の希望によって決まる |
ジョブ型の導入が、そのまま「入社直後から職務が固定される」ことを意味するわけではありません。指針自体も、個々の企業の経営戦略や歴史など実態が千差万別であることに鑑み、自社のスタイルに合った導入方法を各社が検討できることが大切だ、という立場を取っています。
通年採用と、採用の複線化
ジョブ型と並んで語られるのが通年採用です。経団連と国公私立大学の代表者で構成される採用と大学教育の未来に関する産学協議会は、2024年度報告書で「様々な選択に対応可能な採用の実現」を掲げ、卒業・修了年度における秋・冬採用と、既卒採用(卒後就活)を検討課題としています。
報告書は現状についても率直に書いています。企業は秋・冬採用を実施しているものの春・夏採用に比べて規模は限定的であること、学生には無所属であることへの不安があること、大学には在学中の内定獲得を促す傾向があることが、課題として挙げられています。
一方で、学生・社会に向けたメッセージとして次の点が示されています。
- 多くの企業は卒業・修了年度における秋・冬採用や既卒採用を実施しており、春夏以外の時期に就職活動を行う学生にも門戸を開いている
- 既卒者も、新卒者・第二新卒者と同じ「新卒採用」として採用している
- 採用予定数を充足している場合でも門戸を開いている企業が存在する
- 「在学中に就職活動を終えなければならない」という固定観念を見直す必要がある
夏のインターンから始まる流れに乗り遅れたと感じても、経路が1本しかないわけではありません。ただし秋・冬採用の規模が限定的であることも同じ報告書に書かれているため、余裕があるという意味ではありません。
既卒者の扱いについては、厚生労働省の指針が卒業後少なくとも3年間は新卒枠に応募できるよう努めることを企業に求めています。実際の受け入れ状況と、3年以内離職率の統計は既卒・第二新卒の就活|卒業後3年以内は新卒枠、指針と離職率の統計で見る実際【28卒】にまとめました。
ジョブ型の企業に応募するときの準備
職種別・コース別の採用では、選ぶ段階で判断を求められます。確認しておきたいのは次の点です。
| 確認する項目 | なぜ確認するか |
|---|---|
| コースの区分と数 | ソニーグループのように130コースに分かれる企業もある。区分が細かいほど、選び直しの余地は小さくなる |
| 初期配属が確約されるか | 確約型と非確約型を両方用意している企業がある。KDDIのOPENとWILL、三菱UFJ信託銀行のオープン採用と部門選択採用がその例 |
| 入社後に職種を変えられるか | KDDIはWILLコースで採用された場合も入社後の社命異動で職種変更が生じることがあると記載している |
| 社内公募の応募資格 | 資生堂は新卒社員が入社3年後から社内公募に応募可能と記載している |
| 若手へのジョブ型の適用範囲 | 入社直後は対象外としている企業がある |
職種を選ぶということは、その職種で何ができるかを説明する必要があるということでもあります。インターンシップで特定の職種を体験していれば、その経験がそのまま材料になります。プログラムの選び方はインターン優遇とは?早期選考・選考免除の仕組みを一次資料で解説【28卒】で扱っています。
指針に載っている企業のうち、当サイトで扱っている社
20社のうち、当サイトでインターンシップの募集要項を記事にしている企業は次のとおりです。募集要項の職種区分と、指針に書かれた採用方式を照らし合わせると、その企業の考え方が見えてきます。
- ソニーグループのインターンと早期選考|職場密着で2〜4週間、専門活用型の要件を満たす【28卒】 130コースの職種別採用
- KDDIのインターンと選考 OPENコースとWILLコース
- 日立製作所のインターンと早期選考|「インターンシップ」は2週間、他は「ワークショップ」【28卒】 ジョブマッチングとパーソナライズ採用
- 資生堂のインターンと早期選考 ジョブファミリー別採用
パナソニックについては、指針に掲載されているのはパナソニック コネクト株式会社で、当サイトで扱っているパナソニックのインターンとは募集主体が異なります。同じグループでも制度は同一とは限らないため、応募先の会社名で確認してください。
よくある質問
ジョブ型の企業に入ると、ずっと同じ仕事ですか
企業によります。指針では、オリンパスが新卒入社後10年程度はローテーションを続けると記載し、アフラック生命保険もキャリア初期は会社主導の異動を組み合わせると記載しています。一方、三菱UFJ信託銀行はジョブ型人事の下では原則として異動はないとしています。募集要項と各社の人事制度の説明を確認してください。
職種を決めずに応募することはできますか
できる企業があります。KDDIのOPENコース、三菱UFJ信託銀行のオープン採用がその例です。指針にも、自らの適性を理解できていない学生が多いことを背景に、限定しないコースを残しているという趣旨の記載があります。
新卒採用が減っているなら、就職は難しくなりますか
指針で経験者採用の割合が増えているのは事実ですが、オムロンは優秀な人材・ポテンシャルのある人材を確保するにあたり新卒採用は有用であり、経験者採用一本に絞ることは現時点では考えていないと記載しています。政府の決定文書では、企業が採用予定数を充足できた割合が2025年卒で3割台にとどまるとされており、採用枠が埋まっていない状況もあります。
通年採用の企業は、いつでも応募できますか
企業ごとに時期が決まっているのが実情です。産学協議会の報告書も、秋・冬採用の実施規模は春・夏採用に比べて限定的であると認めています。門戸は開いているが枠は大きくない、という理解が実態に近いといえます。
初期配属確約のコースは有利ですか
有利不利ではなく、性質が違います。アフラック生命保険のWING制度は、対象を入社時点からキャリア志向が高く意欲や能力がある人財としています。やりたいことが定まっている場合は合いますが、入社後に別の職種を試したい場合は、確約しないコースのほうが動きやすくなります。
ジョブ型と書いていない企業はどう見ればいいですか
採用ページの職種区分を見てください。職種別・コース別の募集になっていれば、名称にかかわらず同じ方向の運用をしていることが多いといえます。指針に掲載されている三菱マテリアルやライオンも、ジョブ型という名称より先にコース別採用を実施していました。
この指針は今後も更新されますか
令和6年8月28日時点で公表されたものです。更新の予定は指針自体には記載されていません。各社の制度はその後変わっている可能性があるため、最新の内容は各社の採用ページで確認してください。
産学協議会は、経団連の公式ページによると2024年度をもって常設の会議体としては発展的に解消され、今後は産学が合意するテーマに応じて協議の場を設ける形になっています。この記事が引く2024年度報告書(2025年5月9日公表)は、その最終の報告書です(経団連「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」ページ、2026年10月7日確認)。
この記事は2024年時点の政府指針・報告書をもとにしています。各社の制度は変わることがあるため、応募の前に志望企業の採用ページで最新の内容を確認してください。
まとめ
- 政府が公表した「ジョブ型人事指針」に、20社の新卒採用の実態が具体的に書かれている
- 方式が記載されている企業のほぼすべてが職種別またはコース別の採用を行っている
- 初期配属を確約する制度を持つ企業が出てきた。確約しないコースを併存させる企業もある
- 経験者採用が新卒採用を上回る企業が複数ある一方、新卒採用は有用と明言する企業もある
- 入社後3〜10年程度はローテーションを続ける企業も多く、入社直後から職務が固定されるとは限らない
- 秋・冬採用や既卒採用にも門戸は開いているが、産学協議会の報告書は実施規模が限定的であることも認めている
参照した情報源
- 内閣官房・経済産業省・厚生労働省「ジョブ型人事指針」(令和6年8月28日、2026年9月に内容を確認)。20社の導入事例、閣議決定文書の引用、各社の採用方式と新卒・経験者の比率
- 採用と大学教育の未来に関する産学協議会「2024年度報告書」(2025年5月9日公表、2026年9月に内容を確認)。採用の複線化、卒業・修了年度における秋・冬採用と既卒採用に関する現状認識とメッセージ
- 就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議「2027年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方」(令和7年12月26日決定、2026年9月に確認)。採用予定数の充足状況
表中の数値はいずれも各資料に記載された時点のものです。制度は変更されることがあるため、応募の前に各社の採用ページをご確認ください。