大学4年の11月に内定がないと、もう1年学生を続けるか、卒業してから就活を続けるかで悩むと思います。先に結論を書くと、留年は高くつく条件がそろうので、既卒を基本線に考える人が多くてよいというのがこの記事の見立てです。ただし、志望先に既卒を受け付けないところが多い人、学費の出どころが決まっていて奨学金や修学支援に頼っていない人には、留年を選ぶ理由があります。
1年分の授業料は国立の標準額で535,800円、私立の平均で968,069円。既卒で国民年金を12か月納めると215,040円です。新卒枠で正社員を募集した事業所のうち、既卒者が応募可能だったのは73%でした。貸与奨学金は卒業延期が確定すると原則廃止になり、修学支援も修業年限内に卒業できないと確定すると打ち切りになります。
企業が留年と既卒をどう見るかを比べた統計は見つけられなかったので、どちらが有利とは書きません。比べられるのは、お金と応募の入口と制度です。
比べる軸は費用・応募できる枠・支援制度・時間の使い方
- 費用:1年でいくら出ていくか。誰が払うのかも含めて考えます
- 応募できる枠:留年中は在学中の学生として新卒枠に応募する形になりますが、扱いは企業の募集条件で確かめます。既卒も企業の募集条件しだいです
- 支援制度:奨学金や修学支援を使っているか。使っている人は留年で止まる可能性があります
- 時間の使い方:留年は授業や手続きと並行して動き、既卒は平日の昼も自由に使える代わりにペースを自分で作ります
4つのうち見落としやすいのは支援制度だと思います。費用の話は家族ともしやすいのですが、奨学金が止まる話は決めたあとで気づくと取り返しがききません。
就職留年と既卒の比較表
| 項目 | 就職留年 | 既卒(卒業してから就活) |
|---|---|---|
| 学費 | 1年分の授業料が目安。国立の標準額535,800円、私立の平均968,069円。留年中の扱いは大学ごとに違う | 卒業すればかからない |
| 年金 | 学生納付特例を申請すれば在学中の保険料が猶予される(本人の所得審査あり)。免除ではない | 月17,920円(令和8年度)を自分で納めるか、免除・猶予の窓口で相談 |
| 奨学金や修学支援 | 貸与奨学金は卒業延期の確定で原則廃止。修学支援は修業年限内の卒業ができないと確定すると打ち切り。成績不振で最終学年を留年している場合は、在学採用の新規申込みができない | 在学中の貸与や支援は卒業までの話。返還の開始時期などは自分の奨学金の案内で確認 |
| 応募できる枠 | 在学中の学生として応募する新卒枠(扱いは募集要項で確認) | 既卒可の新卒枠と既卒向けの求人。不可の事業所もある |
| 窓口 | 大学の学務窓口と就職支援の窓口、新卒応援ハローワーク、民間の就職サポート | 新卒応援ハローワーク(卒業後おおむね3年以内)、民間の就職サポート。大学の窓口が卒業後も使えるかは大学で確認 |
既卒は本当に不利か。統計でわかること、わからないこと
厚生労働省の労働経済動向調査(令和8年8月)によると、令和7年度の新規学卒者の採用枠で正社員を募集した事業所のうち、既卒者は応募可能だった事業所は73%、応募不可だった事業所は24%でした。応募可能だった事業所のうち「採用にいたった」のは44%です。前年の調査では71%と43%だったので、大きな変化はありません。
44%の分母は「既卒者は応募可能だった」事業所です。募集した事業所全体に対する割合ではなく、既卒者の内定率でもありません。応募がなくて採用にいたらなかった事業所もこの数字からは区別できません。また、この調査の「既卒者」は、学校卒業後すぐに調査対象の事業所に就職する者以外で35歳未満の者を指し、勤務経験は問いません。社会人経験のある人も含む数字です。
つまり、入口は多くの事業所で開いているけれど、全部ではない。受かりやすさまでは統計から言えない。そのくらいの受け止め方が妥当だと思います。
判断に効きそうなのは業種の差です。既卒者が応募可能だった事業所の割合は、宿泊業・飲食サービス業が89%、医療・福祉が85%と高く、製造業は60%(応募不可37%)、不動産業・物品賃貸業は64%(応募不可36%)でした。志望業界によって景色はかなり変わります。
今後の方針を聞いた項目(令和8年8月1日現在)では、「応募可能としたい」30%、「年齢によって応募可能としたい」14%、「応募不可としたい」3%、「現在のところ未定」31%、「本社等でしか回答できない」16%でした。前年の「応募可能としたい」は31%です。はっきり閉じると答えた事業所は少ないものの、最も多いのは未定なので、志望先ごとの確認は省けません。
青少年雇用機会確保指針は、卒業者が卒業後少なくとも3年間は新卒枠に応募できる条件にすることを定めています。厚労省のリーフレットでは「応募できるように努めること」と表現されており、すべての募集で応募できるとは限りません。令和8年3月の青少年雇用対策基本方針も、指針を活用して既卒者が正規雇用に応募する機会を広げる取組を促していくとしています。追い風ではありますが、個々の企業の応募条件は募集要項を見るしかありません。
卒業後に就職も進学もしない人がどのくらいいるかは、学校基本統計でわかります。令和7年3月の大学学部卒業者584,304人のうち、「左記以外の者」は42,120人(7.2%)でした。これは進学でも就職でもないことが明らかな者で、進学準備中、就職準備中、家事の手伝いなどを含みます。全員が就活中というわけではありませんが、珍しい進路ではないことは伝わる数字です。令和8年度の確定値は12月に公表予定です。
1年分の費用を試算する
次の表は公表されている額をもとにした試算です。留年側は授業料だけ、既卒側は国民年金だけを計算しています。
| 区分 | 就職留年の1年(授業料) | 既卒の1年(国民年金12か月) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 国立(標準額) | 535,800円 | 215,040円 | 320,760円 |
| 私立(平均) | 968,069円 | 215,040円 | 753,029円 |
- 国立の535,800円は令和7年度の標準額です。各大学は標準額の120%を上限に授業料を決めるので、上限まで上げた大学なら642,960円になります
- 私立の968,069円は令和7年度入学者の平均で、授業料だけの額です。初年度の納付金の総計(入学料、施設設備費、実験実習料等を含む)は1,507,647円で、別の数字です。留年中に授業料以外がいくらかかるかは大学によります
- 215,040円は令和8年度の月額17,920円の12か月分です。すべて自分で納めた場合の計算で、卒業後は次の年度に入るので実際の額はそのときの案内で確認してください
- 留年側は学生納付特例で保険料の猶予を受ける前提です。猶予は免除ではありません。留年中も保険料を納めると、合計は国立で750,840円、私立で1,183,109円になります
- 生活費、就活の交通費、ほかの保険料や税金は入れていません
おおまかに30万円から75万円の差です。この差を、学生のまま就活を続ける1年の値段として納得できるかどうか。私はここが一番の分かれ目だと考えています。
就職留年で注意すること
貸与奨学金は卒業延期が確定すると原則廃止
日本学生支援機構(JASSO)の適格認定では、修業年限で確実に卒業できる見込みがあることが学業の基準です。卒業延期が確定した人や、その可能性が極めて高い人は原則「廃止」と書かれています。
留年中は申し込みにも制限がある
JASSOのよくある質問には、成績不振による留年に相当する期間中は申し込めず、最終学年を留年している場合は申込みができないとあります。止まった分をあとから借り直して埋める、という計画は立てにくいと考えてください。被災や災害に起因する卒業延期には別の案内があります。
修学支援は修業年限内の卒業ができないと確定すると打ち切り
給付奨学金と授業料減免の修学支援新制度でも、修業年限内で卒業できないことが確定すると支援は打ち切りです。正規の手続きで認められた休学は確定とは見なされない、事情がある場合は打ち切りにならないといった例外も案内されています。自分が当てはまるかは自己判断せず、窓口で聞いてください。
学費の扱いは大学ごとに違う
留年中の学費がいくらになるかは大学によって違います。どうすれば卒業延期になるのか、いつまでに何を出すのかも同じです。先ほどの試算は通常の授業料がかかる前提なので、自分の大学の額に置き換えてください。
奨学金や修学支援を使っている人は、留年を決める前に学務窓口と奨学金の窓口で確認してください。決めてから聞くと選択肢が減っている場合があります。
既卒で動くときの窓口
公的な窓口は新卒応援ハローワークです。学生と卒業後おおむね3年以内の既卒者が対象で、担当者制の支援を無料で受けられます。求人検索のほか、エントリーシートや履歴書の作成相談、面接指導もあります。新卒者向け求人は今年度3月卒業予定の学生が対象ですが、既卒者が応募できる求人も多いと案内されています。対象の書き方は施設によって違うことがあるので、行く予定の施設の公式ページで確かめてください。
民間の就職サポートには、既卒や第二新卒を対象にしたUZUZのようなサービスがあります。対象の条件は申込時に確かめてください。比較したい人は就活エージェントおすすめ7選を、既卒の就活全体の進め方は既卒・第二新卒の就活をどうぞ。サービスの中身は27卒で10月にまだ内定がない人へにまとめています。
第二新卒・既卒・フリーター・ニートの就職サポート【UZUZ】
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向く人・向かない人
就職留年が向く人
- 志望先の募集要項を見て、既卒不可のところが複数あった
- 学費の出どころが決まっていて、貸与奨学金や修学支援を使っていない
- 1年の使い道を具体的に言える
- 大学の窓口や授業のように決まった予定があるほうが動きやすい
就職留年が向かない人
- 留年中の学費を新たに奨学金でまかなうつもりでいる
- 奨学金や修学支援が止まると学生生活が続けられない
留年する理由がまだ「もう少し時間がほしい」だけなら、既卒で受けられる先を調べてから決めても遅くないと思います。
既卒が向く人
- 志望先に既卒応募可のところが十分ある
- 学費をかけずに就活を続けたい
- 平日の昼に面接や窓口の予定を入れて動きたい
既卒が向かない人
- 第一志望の業界で既卒不可が目立つ
- 相談先を持たず一人で続けると止まりやすいと自覚していて、窓口を使う気持ちにもなれない
11月からの動き方の順番
留年か既卒かを決める前に、卒業までの数か月は在学のまま受けられる枠を動かすのが先です。どちらを選ぶにしても、ここで決まれば悩まなくて済みます。
- 学務窓口で、留年の手続きと期限、留年中の学費を確認する。奨学金や修学支援を使っているなら一緒に聞く
- 志望先を書き出し、募集要項で既卒の応募可否を確かめる
- 大学の就職支援の窓口、新卒応援ハローワーク、民間の就職サポートを使って、今年度3月卒業予定の学生として受けられる求人に応募する
- 留年の手続きの期限より前に、選考の進み具合と1で聞いた費用をもとに決める
- 既卒を選んだら、卒業までに新卒応援ハローワークなどの窓口とつながっておき、年金の納め方も確認する
既卒で動く前に今から相談したい在学中の27卒には、UZUZの新卒向けサポートがあります。サービスに卒業年の表記はないので、対象に入るかは申込時に確かめてください。そもそも何から手をつけるかで止まっている人は、就活で迷ったときの記事も参考になると思います。
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よくある質問
企業から見て、就職留年と既卒はどちらが有利ですか
両者を比べた統計は見つけられず、有利不利は断定できません。どちらであっても、その1年に何をしたかを自分の言葉で話せるようにしておくことが現実的な備えだと思います。
既卒でも新卒枠に応募できますか
応募できる企業はあります。新卒枠で正社員を募集した事業所のうち73%は既卒者が応募可能でしたが、24%は不可でした。募集要項で確かめてください。
卒業後3年以内なら必ず新卒扱いになりますか
なりません。指針は卒業後少なくとも3年間は応募できるものとすることを定め、厚労省のリーフレットは「努めること」と表現していますが、応募可否も年齢の条件も企業ごとに違います。
「採用にいたった」44%は既卒の内定率ですか
違います。既卒者が応募可能だった事業所のうち、採用にいたった事業所の割合です。応募した人のうち何人が受かったかを示す数字ではありません。
就職留年中の年金はどうなりますか
学生納付特例を申請すると、在学中の保険料の納付が猶予されます。本人の所得の審査があり、免除ではなく猶予です。卒業後は自分で保険料を納めるか、免除・猶予の窓口で相談してください。
留年すると奨学金はどうなりますか
貸与奨学金は卒業延期が確定すると原則廃止、修学支援は修業年限内に卒業できないと確定すると打ち切りです。成績不振で最終学年を留年している場合は、在学採用の新規申込みもできません。就職のための留年がどう扱われるかは、決める前に窓口で確認してください。
まとめ
- 費用の差は試算で30万〜75万円ほど。留年は授業料に加え、奨学金や修学支援が止まる可能性もあるので、既卒を基本線に考える人が多くてよいと思います
- 新卒枠で正社員を募集した事業所のうち既卒者が応募可能だったのは73%。製造業は60%など業種で差があり、志望先の確認が決め手になります
- 44%は既卒者が応募可能だった事業所が分母で、内定率ではありません
- 志望先に既卒不可が多く、学費の出どころが決まっていて支援制度に頼っていない人には、留年に理があります
- まず卒業までは在学のまま受けられる枠を動かし、留年の手続きの期限は大学で確認します
参照した情報源
- 厚生労働省「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第406号)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00009730&dataType=0&pageNo=1(2026年11月1日確認)
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク リーフレット LL021102 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000693889.pdf(2026年11月1日確認)
- 厚生労働省「青少年雇用対策基本方針」(令和8年3月31日告示第170号)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00013960&dataType=0&pageNo=1(2026年11月1日確認)
- 厚生労働省「労働経済動向調査(令和8年8月)の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2608/dl/7roudoukeizaidouko.pdf(2026年11月1日確認)
- 厚生労働省「労働経済動向調査(令和7年8月)の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2508/dl/7roudoukeizaidouko.pdf(2026年11月1日確認)
- 文部科学省「国立大学法人等に関する参考資料」令和8年2月24日(令和7年度標準額)https://www.mext.go.jp/content/2026-mxt_hojinka-000047558_9.pdf(2026年11月1日確認)
- 文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1412031_00006.htm(2026年11月1日確認)
- 日本学生支援機構「適格認定」https://www.jasso.go.jp/shogakukin/saiyochu/taiyo/tekikaku_nintei.html(2026年11月1日確認)
- 日本学生支援機構 よくある質問「【在学採用】成績不振のため、現在留年中です。在学採用へ申し込むことはできますか。」https://www.jasso.go.jp/faq/shogakukin/moshikomi/zaigaku/houhou/1215989_2674.html(2026年11月1日確認)
- 日本学生支援機構「最高学年でやむを得ず卒業延期となった方への支援」https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/taiyo/taiyo_2shu/kikanenchou.html(2026年11月1日確認)
- 文部科学省 リーフレット「高等教育の修学支援新制度の学業要件」(令和7年度から)https://www.mext.go.jp/content/20250911-mxt_gakushi_100001505_1.pdf(2026年11月1日確認)
- 文部科学省「高等教育の修学支援新制度に係る質問と回答」https://www.mext.go.jp/content/202250410-mxt_gakushi01_100001055_02.pdf(2026年11月1日確認)
- 日本年金機構「国民年金保険料」(令和8年度)https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/hokenryo.html(2026年11月1日確認)
- 日本年金機構「学生の皆さまへ 学生納付特例制度のご案内」https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/gakusei.html(2026年11月1日確認)
- 厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「よくあるご質問(学生の方)」https://www.hellowork.mhlw.go.jp/help/question03.html(2026年11月1日確認)
- 文部科学省「令和7年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値」令和7年12月26日公表 https://www.mext.go.jp/content/20260327-mxt_chousa01-000048552_10.pdf(2026年11月1日確認)
- 文部科学省「令和8年度学校基本統計 速報値」令和8年8月26日公表 https://www.mext.go.jp/content/20260826-mxt_chousa01-000050842_01.pdf(2026年11月1日確認)
この記事は一般的な情報の整理で、法的助言や個別の奨学金の判断ではありません。最新の条件は大学や日本学生支援機構、年金事務所、ハローワークなど各窓口で確認してください。
アイキャッチ画像: 「Main Street of Hokkaido University in Autumn」 ノボホショコロトソ / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons(横長に切り抜き)