内定と内々定は、言葉が似ているだけで法的な扱いが違います。厚生労働省の説明によれば、内定は労働契約が成立したと認められることが多く、内々定は成立が認められないケースが多いとされています。この違いを知らないまま辞退や取消しに直面すると、判断を誤ります。
この記事は厚生労働省の公開資料をもとにした一般的な説明です。個別の事案に対する法律相談ではありません。実際にトラブルが起きた場合は、大学のキャリアセンターや、記事の後半で挙げる公的な相談窓口に相談してください。
内定は労働契約が成立している
厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、採用内定について次のように説明されています。採用内定通知のほかに労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていない場合、採用内定により「始期付解約権留保付労働契約」が成立したと認められることが多いとされています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 始期付 | 働き始める時期(入社日)が決まっている |
| 解約権留保付 | 内定通知書や誓約書に書かれた取消事由が生じた場合には、企業が解約できる権利を残している |
| 労働契約 | この時点で契約そのものは成立している |
採用内定に法的な定義はなく、態様もさまざまですが、一般的にはこの状態を指すことが多いと説明されています。
内定取消しは解雇にあたる
労働契約が成立していると認められる場合、内定の取消しは解雇にあたります。労働契約法第16条が適用され、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は無効になります。
厚生労働省の資料では、内定取消しが解雇として有効とされるのは原則として次の2つを満たす場合に限られるとされています。
- 採用内定の取消事由が、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
- その事実を理由に内定を取り消すことが、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できること
企業の都合で自由に取り消せるものではありません。新規学校卒業者の内定取消しについては、厚生労働省が対応の枠組みを設けています。
内定取消しは実際にどれくらい起きているか
厚生労働省は、新規学卒者の採用内定取消しと入職時期繰下げの状況を毎年取りまとめて公表しています。2026年8月28日に公表された令和8年3月新卒者の状況は次のとおりです。
| 項目 | 令和8年3月新卒者 | 前年(令和7年3月新卒者) |
|---|---|---|
| 採用内定取消し | 29事業所・80人 | 21事業所・34人 |
| うち大学生等(大学・短大・専修学校等) | 21事業所・66人 | 記載なし |
| 入職時期繰下げ(延期) | 2事業所・2人 | 2事業所・93人 |
年間80人という規模は、新卒就職者全体から見ればごく一部です。ただし前年の34人からは増えており、起こり得ないことではありません。取消しの理由は次のように公表されています。
| 理由 | 事業所数 | 人数 |
|---|---|---|
| 経営の悪化 | 9 | 34 |
| その他 | 18 | 38 |
| 別会社移行 | 1 | 7 |
| 企業倒産 | 1 | 1 |
産業別では宿泊・飲食サービス業が4事業所・27人と人数で最多、企業規模別では300人以上の事業所が14事業所・45人でした。規模の大きい企業だから起きないというものではありません。
取消しを受けた80人のその後については、就職済み17人、就職活動中1人、その他62人と公表されています。
事業所名が公表される場合がある
内定取消しを行った企業は、厚生労働大臣が事業所名を公表できる仕組みがあります。根拠は職業安定法施行規則第17条の4第1項で、対象となる場合は平成21年厚生労働省告示第5号で定められています。
| 事業所名を公表できる場合 |
|---|
| 2年度以上連続して内定取消しが行われたもの |
| 同一年度内に10名以上に対して行われたもの |
| 事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに行われたもの |
| 取消しを行わざるを得ない理由について、対象の新規学卒者に十分な説明を行わなかったとき |
| 対象の新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき |
企業は内定取消しを行う場合、職業安定法施行規則第35条に基づいて事前にハローワーク等へ通知する義務があります。取消しは企業が一方的に処理できる手続きではなく、行政への通知と、場合によっては公表を伴います。学生側が知っておくと、説明を求める根拠になります。
内々定は扱いが異なる
内々定については、内定の段階に比べて多くの場合に労働契約を締結したとの認識には至っていないと考えられる、と説明されています。労働契約の成立が認められないケースが多い、という位置づけです。
| 内々定 | 内定 | |
|---|---|---|
| 労働契約 | 成立が認められないケースが多い | 成立したと認められることが多い |
| 企業からの取消し | 解雇の問題として扱われないことがある | 解雇にあたる |
| 時期の目安 | 10月1日より前に伝えられるもの | 10月1日以降の正式な通知 |
就職・採用活動日程のルールでは、正式な内定日は卒業・修了年度の10月1日以降とされています。それ以前に「内定」と口頭で言われても、実態としては内々定であることが多いのはこのためです。日程の詳細は就活の日程ルール|広報3月・選考6月・内定10月と実態の乖離を政府資料で確認【28卒】にまとめています。
学生の側から辞退する場合
厚生労働省の説明では、労働者の意思に反して労働契約の履行を義務づけることはできないため、辞退した場合の責任は損害賠償責任にとどまるとされています。内々定の辞退については、職業選択の自由(憲法22条1項)が挙げられています。
辞退できないということはありません。ただし、辞退の連絡を先延ばしにすると企業側の採用計画に影響します。決めたら早く伝えるのが、結果として双方にとって負担が小さくなります。
入社を辞退する意思が固まったら、電話で担当者に直接伝えたうえで、メールでも記録を残す形が一般的です。理由を細かく説明する義務はありませんが、伝え方で相手の受け止めは変わります。
複数の内々定を持つことについて
日程ルールの決定文書によれば、学生が就職活動を終えたと考えるタイミングは「内々定をもらった企業の中から就職先を決定したとき」と「志望度の高い企業から内々定をもらった時」で合わせて約6割を占めます。一方、10月1日以降とされる「内定式に出た時・正式な内定通知を受けた時」は約1割弱です。
複数の内々定を持ったまま活動を続ける学生が多く、それが就活の長期化につながっているという分析が同文書に記載されています。
内定と引き換えに辞退を迫られたら
内定や内々定を出す代わりに他社の選考を辞退するよう求める行為は、オワハラと呼ばれます。日程ルールの決定文書では、その防止に向けた取組みを関係者に要請しており、都道府県労働局とハローワークが学生からの相談を受け付け、事実確認のうえ適切に対処すると明記されています。大学のキャリアセンターとも連携する仕組みです。
| 相談先 | 特徴 |
|---|---|
| 大学のキャリアセンター | 過去の事例を把握している。学内で完結する |
| 都道府県労働局 | 決定文書で相談窓口として明記されている |
| ハローワーク | 同上。新卒応援ハローワークが各地にある |
断り方と、政府の決定文書がオワハラをどう位置づけているかはオワハラとオヤカク|政府文書での位置づけと、断り方・相談先【28卒】で詳しく扱っています。保護者に入社の意思を確認するオヤカクについても、同じ文書に記述があります。
提出書類について
内定の際には、内定承諾書や誓約書の提出を求められることがあります。厚生労働省の説明では、採用内定は雇用者が行う内定通知と、その通知に対する就職希望者の承諾によって成立するとされています。
書類の名称や内容は企業によって異なります。署名する前に、記載されている取消事由と、入社日、提出期限を確認してください。疑問があれば署名前に大学のキャリアセンターに相談するほうが安全です。
就職活動の進め方に迷っている場合は、就職活動を続けるか迷ったときに確認できること|公的な相談窓口と、制度上の選択肢【28卒】もご覧ください。新卒応援ハローワークでは臨床心理士等への相談もできると案内されています。
よくある質問
内定をもらったら辞退できないのですか
辞退できます。厚生労働省の説明では、労働者の意思に反して労働契約の履行を義務づけることはできないとされています。
内々定と内定はどう見分ければよいですか
正式な内定日は10月1日以降とされています。それ以前に伝えられるものは内々定であることが多い、という目安になります。ただし呼称は企業によって異なるため、書面の有無や内容で判断するほうが確実です。
企業から内定を取り消されることはありますか
内定取消しは解雇にあたり、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合は無効です。企業が自由に取り消せるものではありません。
内定取消しはどれくらい起きていますか
厚生労働省の公表(2026年8月28日、令和8年3月新卒者)では、29事業所で80人でした。うち大学生等は21事業所・66人です。前年の令和7年3月新卒者は21事業所・34人でした。
内定を取り消した企業の名前は公表されますか
公表される場合があります。2年度以上連続して行われた、同一年度内に10名以上に行われた、十分な説明を行わなかった、就職先確保の支援を行わなかったなどの要件に該当する場合、厚生労働大臣が事業所名を公表できると定められています(職業安定法施行規則第17条の4、平成21年厚生労働省告示第5号)。
内定承諾書を出したら他社を受けられませんか
法的に他社の選考を受けることを禁じられるわけではありません。ただし企業との信頼関係の問題は残ります。判断に迷う場合はキャリアセンターに相談してください。
複数の内々定を持っていてもよいのですか
日程ルールの決定文書でも、複数の内々定を維持したまま活動を続ける学生が多いことが記載されています。就職先を決めたら、他社には早めに連絡してください。
他社の辞退を迫られたらどうすればよいですか
都道府県労働局とハローワークが相談窓口として明記されています。大学のキャリアセンターとも連携する仕組みになっています。一人で抱える必要はありません。
辞退したら損害賠償を請求されますか
厚生労働省の説明では、責任は損害賠償責任にとどまるとされています。個別の事案については専門の窓口に相談してください。この記事は一般的な説明であり、法律相談ではありません。
内定式に出たら就職先を決めたことになりますか
内定式の出席と、その後の辞退の可否は別の問題です。決定文書にも、内定式出席後に辞退する事例があることが記載されています。
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選考を有利に進めたい人へ
内定と内々定で辞退や取消しの扱いが違う、という話を読んで不安が残る人もいるはずです。複数社の選考を並行して進める場面では、就活エージェントの担当者に状況を相談しておくと整理しやすくなります。
この記事は厚生労働省の公開資料をもとにした一般的な説明で、個別の事案への法律相談ではありません。実際にトラブルが起きた場合は記事後半の公的な相談窓口に相談してください。
まとめ
- 内定は「始期付解約権留保付労働契約」が成立したと認められることが多い
- 内定取消しは解雇にあたり、労働契約法16条が適用される
- 内々定は労働契約の成立が認められないケースが多い
- 学生からの辞退は可能で、責任は損害賠償責任にとどまるとされている
- オワハラの相談先として都道府県労働局とハローワークが明記されている
参照した情報源
- 厚生労働省「令和8年3月新卒者採用内定取消し等の状況を公表します」(2026年8月28日公表)
- 職業安定法施行規則(昭和22年労働省令第12号)第17条の4、第35条、および職業安定法施行規則第17条の4第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める場合(平成21年厚生労働省告示第5号)
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「採用の内定・内々定について、取消や辞退する場合の注意点」(2026年9月確認)
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」裁判例「採用内定の取消」(2026年9月確認)
- 就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議「2027年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方」(令和7年12月26日決定)
この記事は公開資料に基づく一般的な説明です。個別の事案については、大学のキャリアセンターまたは都道府県労働局・ハローワークにご相談ください。制度や運用は変わることがあるため、最新の情報は各機関のサイトでご確認ください。